ルパパト: ノエルさんは「大奸智にして無欲の人」?
大奸智にして無欲の人
ノエルさんを見ているとこの言葉が頭に浮かぶ。
凄くずる賢いけど欲のない人って意味かな?
実際にはこんな欲張りな人もいないかもしれないんだけどね。坂本龍馬が敵同士の薩摩と長州を結び付けたように、快盗と警察、相容れない2戦隊を共闘させようなんて事を大真面目に考え、実現しようなんて。そのために両方の戦隊にぬけぬけと入り込んで来て。
大事な人を失った時に
絶対取り戻したいと思ったのが快盗
その死を無駄にせず同様の悲劇を防ぎたいと思ったのが警察
ノエルさんはアルセーヌを失った時にその両方を同時に強く思ってしまったのかもしれないけど。
ノエルさんがずる賢いかどうかは微妙だけど、必要なら正しい目的のために正しくない手段を躊躇わずに取れる。
すぐに返したとはいえ気軽に大勢のスマホを掏りとる。咲也と初美花の恋のキューピットになろうと思って最初にしたのも咲也のスマホを掏りとる事。挙動が心配だからと仲間をこっそり尾行するのも平気。
隠し事も多くする。快盗の正体を隠したまま警察と仲良くさせようと画策する。
警察相手だけでなく、たぶん快盗にもミステイクと嘘をつき、グッティとビークルを警察に送った。ノエル以外の誰にグッティが大人しく梱包されたりするかと考えれば。
だけどそれは私欲ではなく問題を解決するため。快盗と警察という相容れない二つを結びつけるため。そうしないと決闘回で圭一郞に言ったようにギャングラーに対抗出来ない=いずれは負けて死ぬとたぶん思っているから。
そのためならいざとなれば自分を捨てる。そもそもこの立ち位置を選んだ時に自分が好かれる事を度外視している。寂しがりの癖に。
孤児として路上に放り出され、引き取られたのは伝説的な快盗の屋敷、という育ちなのに、人を守る方にも意識が行き、しばしば自分より他人を優先する、根は純粋なお人好し。
そんなノエルの本質は光、でも環境から後天的に身に付けた手段は闇、そういう形で両方の属性を持ち合わせたのかなと思う。
そのために快盗と警察の両方に属しながら両方とも中途半端。どちらにも個人として徹する覚悟は持てないけど両方を命に変えて守る覚悟はある。
ノエルさんはたぶん、自分がちゃんとした快盗やちゃんとした警察官になりきりたいわけじゃない。元はエンジニアだし。
それより両方の戦隊を一人も死なせずに共闘させる事が一番大事。そういう自分だけの茨の道を命がけで突き進むという事。
その為には手段は選ばず時には相手の心は傷つけ、でも命は我が身に変えて守る。
そういう矛盾というか、二面性を抱えた人でなければ、警察と犯罪者の共闘の模索などという「何を言ってるんだろうこの人は」な発想をしてその道を突き進む事もなければ、進んだとしても最終的にそのどちらもが彼を信頼し、その窮地を命がけで救いに来る事もなかったのでは?と思う。
正しく誠実な道を行こうとするなら、咲也の真心が届いてしまった初美花のようにそれ以上身動きが取れなくなってしまうかもしれない。
助けられて感動し君達が好きだと言い、借りを返すためなら命も捨てる覚悟もあるけど、次の回の冒頭には助けてくれた人達のパソコンに侵入出来るメンタリティを敢えて描いたのはそういう事かもしれないなと。
そもそもノエルに厳密に正しさ誠実さを求めるなら、素性を隠して国際警察に入る事が間違いだった。
でも快盗の活動開始とノエルの国際警察入りの前後関係はわからなかったけど、ノエルがルパン家=犯罪依頼元に所属する者だと分かったら国際警察は彼を受け入れなかったかもしれない。
その場合戦力部隊は今もまともに戦えていなかった事になるけど。
またそういう奴が他者より我が身可愛さを露呈したらその時点で信頼はアウト。快盗達は折々で目的や快盗の為に自分を二の次にするノエルを見たし、警察もゴーシュに自分を差し出す姿でそれが分かって信じられるようになった。
そんな姿は「人間」として間違っているのかもしれないし幸せでもないのだろうけれど、そういう奴がいなければここまで来られなかったろうな。ライモンや実験体の時に両戦隊とも全滅してたかもしれないし。
本当はそういう彼の覚悟や思い(特に警察側)、目的を果たした後の姿をもっとしっかり描いて欲しかったと感じる事もあるけれど、このあたりの事情についてはまた思うところがあるので別の形で書きたい。
ちなみに表題の言葉はその後にこんな風に続く。
大奸智にして無欲の人を
日本では鬼神と言ひ、
唐土にては聖人と言ひ、
天笠(印度)にては仏と言ひ、
西洋にてはゴッドと言ふ。
所以は(要するに)
一つなり。
(「竜馬がゆく」より
なんかいろいろ凄い言葉が並んでいるけど、やっぱり「人間」ではないんだろうか?というところがちょっと物悲しい。全てが終わった後なら「人間」になれたのかもしれないけど。
少なくとも司馬遼太郎がよく描いた「乱世に必要な人」のタイプなのかもね。彼がもしノエルさんの事を書いたら
「彼は地上の混乱を収拾するために天が地上にくだしたいっぴきの妖精だったのかもしれない」
なんて言葉で締め括ったりして、と思って、でもそれはその人物が死んだ時に添える言葉だったなあと打ち消した。
だけど、ルパン家やノエルさんについては描かれないままの事が多かったこの最終回以降、何も作品として追加される事がないのなら、いっそ「人」ではなく妖精だったと思ってる方が気が楽かもしれないな、とも少し思う。作品として嫌いにはなれないだけに。